約束だからね。お父さん。

 最近ますますメタボな父、五十一歳 。
 疲れているのは分かるけど、仕事から帰って来ると、ビールを持ってソファにドカッと座り、そこから動かない。私や母が心配していること、少しは分かっているのかなぁ。
「お〜い、もう一本持って来てくれ。」
父の声に私は聞こえないフリをする。
「お〜い、すずちゃん。」
ちゃん付けしてもダメなもんはダメなんだから。
 そんな父にも、頭のあがらない人がいる。田舎に住む祖母だ。
 父は数年前、腸閉塞という病気になって、お腹を切る手術をした。その時もすでに太り気味で、祖母にガミガミ怒られていた。
手術前の説明では、命に関わるような難しい手術ではないと聞いていた。しかし、手術は予定されていた三時間を大幅に過ぎても終わらず、何か問題があったのではないかと、待合室で祖母や叔母、母や私で、ずっと心配していた。
 やっと、手術中のランプが消え、手術室から出て来た先生は汗を拭いながらこう言った。
「今日の敵は脂肪の塊でしたよ。」
 先生の話は実にリアルで、父のお腹は切っても切っても脂肪が次から次に溢れ出てきて、患部まで辿り着くのに苦労したというのだ。
 私は頭の中で豚肉のラードが浮かんできて、思わず『うわぁ、気持ち悪い』と思った。ポコッと出たお腹の中身は、やっぱり健康の敵、脂肪の塊だったのだ。
 何はともあれ手術は成功したので、今では笑い話だ。それから父はしばらく食事にも気をつけたような気もするけど、やっぱり長続きしなかった。この暑さだからビールを飲みたくなる気持ちも分かるけど、また病気になったらと思うと、やっぱり心配だ。
 私は時々田舎の祖母に電話をして言いつけている。父が祖母に頭があがらないのは、祖母が、肝臓ガンを患って入退院を繰り返していた祖父の看病をしながらも、男勝りに働いて、父を大学に行かせてくれたからだ。祖母は当時を、
「保険が助けてくれたから何とかやって来ることができた。」
と振り返る。苦労を語るより、感謝を多く語る祖母だ。
 そして、父が入院した時も、祖母は父にかけてくれていた保険を差し出してくれた。
「自分でも保険に入っているし、もう無理してかけてくれなくていいよ。」
と言う父に、
「別に他人様にかけているわけじゃないよ。自分の息子にかけて何が悪い。」
と切り返す祖母。
「可愛い孫のためにかけているのよ。飲んべえ息子に何かあったら困るのは孫だからね。」
「まいったなぁ。」という顔をしている父。隣で私は母と顔を見合わせ、笑いを堪えた。
母から聞いたことがある。祖母は私のためにも、学費準備のための保険をかけてくれているそうだ。保険の大切さを一番知っている祖母が選んだ私への誕生祝いは学資準備のための保険だったんだ。
 祖父はあと三ヶ月の命だと宣告されてからも、祖母と一緒にできる限りの努力を続け、十年もの長い間ガンと闘ったそうだ。その十年の中身は、ガンになんか負けるもんかという祖父の気力と、絶対に私が治してみせるという祖母の愛情、そして気持ちだけではどうにもならない現実的な出費を保険が支えてくれたのだと思う。
 おばあちゃん、長い間苦労したこともいっぱいあっただろうね。健康の尊さも保険の大切さも、日々の生活の中で学んだことなんだね。
 祖母の優しさが保険になって、私たちを包んでくれている気がした。ありがとう。おばあちゃん。
「ビールは一日一本。おつまみは一品。」
約束だからね。お父さん。

静岡県 静岡市立清水第六中学校三学年
小澤 涼香さん
公益財団法人生命保険文化センター
第51回中学生作文コンクール
文部科学大臣奨励賞

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